香港さんといっしょ!ー純粋非二元で目醒めを生きるー

欲望都市香港で覚醒した意識で生きることを実践中。今回を最後の生にするための日常を綴っています。

大いなる赦しの日

木曜日の朝8時半、首席弁護士を含む4名の弁護士チーム、管理部長、総経理、そして僕

総勢7人で、ロビーからレンタカーに乗り、工場へ向かう。

説明会は10時からだったが、門前にはすでに20人くらいの従業員や、

付き添いの家族らが集まっていて、僕たちが到着すると、一斉にこちらへ駆け寄ってきた。

スワット警備員たちに警護されつつ、即刻会場の準備に取り掛かる。人手が足りないので、

弁護士先生たちも1作業員となり、横断幕掲示やマイクの設定、部門別に座る椅子の調整、

書類関係の確認に追われていた。

その間にも、続々と会場である食堂入口付近に従業員たちが集まってくる。

準備をする人たちとは別に、主席弁護士と総経理と僕は、隣の幹部用食堂へ移動する。

9時半になった。僕が、外で待機しているふぁちゃんと、人事担当の男性を呼び入れた。

緊張した面持ちの二人を前に、主席弁護士が残務処理についての説明をする。

弁護士から差し出された新たな臨時契約書を見つめながら話を聞く二人を、

僕は少し離れたところから見守る。弁護士に業務を委任しているので、

契約に関し、僕たちは発言することができないのだ。


『神の使者』や『不死というあなたの現実』、そしてエックハルトの著書を熟読している

ふぁちゃんは、最初から赦していた。この従業員大会でも、

何か手伝えることはないか、と真っ先に声をかけてきてくれていた。

しかし、もう1名の人事担当者が給料の額に難色を示し、それにつられるように

2人揃って外へ出ていってしまった。しばらくして戻ってくると、給料を1500元(約21,000円)

アップしてくれたらやります、と声を揃えて言った。

それくらいのアップならいいかな、と僕は思っていたが、弁護士は頑として同意しない。

残務整理は後半になると、そんなにやることもなく、暇になるので、

金額を上乗せする理由が見つけられない、ということだった。

弁護士の説得は続く。

その間、僕は〝光は訪れている。わたしはありもしない世界を赦した!〟

と言う言葉を黙想しながら、ただじっと設定である彼らを見つめていた。

このガラスの瞳で見える世界は全て真実ではない、と認識しながら兄貴と共にいた。

この光景を見てドキドキしているこの自分さえも無なのだと、ただハートを感じていた

少しして目を開けると、なぜか彼らは臨時雇用契約書にサインしていた。


↑ふぁちゃんたちは別室へ呼ばれた。


幹部用食堂から出てくると、大食堂は従業員たちでごった返していた。

主席弁護士と総経理が入っていく。場内が一瞬静かになった。弁護士が挨拶をする。

なんかあったら、なんかしてやろうと、みんなすごい形相で二人のほうを睨み付けている。

特に、あのコンババ購買員は一番前の席に陣取り、スマホで二人をビデオ撮影しながら、

虎視眈々と反撃の機会をうかがっていた。

この邪悪な雰囲気に、一瞬気分が悪くなる。

〝光は訪れている。わたしはありもしない世界を赦した!〟

しばらくすると、彼らの背後にいる兄貴に気づいた。ああ、これはただの夢の設定だった。

すーっと兄貴が入ってくる。

だが、夢の世界に気づいたってやるべきことはする。

僕は最後列から様子を見ながら、前方の方で待機するようスワット警護員に指示を出した。


途中、保安員がやってきて、仕入れ業者たちが門のところに押しかけてきている、と

僕に耳打ちをした。慌てて別の弁護士と共に、門のところへと向かう。

支払いはどうしてくれるんだ、といきり立つ仕入れ先の社長たちを前に、

来週早々に業者説明会を開催するのでその通知を待つようにと説得し、

なんとかお引き取り願った。

会場に戻ってみると、場内がざわついていた。

たどたどしい中国語で挨拶を述べる総経理に対し、早く補償金について説明しろ、

と従業員たちは色めき立っていた。

やばい。みんな怒りに燃えている。弁護士から聞いた通常のパターンによれば、

ここでペットボトルやサンダルが飛んでくるのだ。

ああ、だめ。設定に呑み込まれそう。世界が本当にあるように見えてきた。


〝光は訪れている。わたしはありもしない世界を赦した。〟

再度兄貴モード全開にする。

コンババ購買員がなにやら大声で叫んだ。

主席弁護士が総経理からマイクを奪おうとした、まさにそのときっ…!


総経理がメガネを取り、テーブルに両手をついたまま肩を震わせ始めた。

マイクを通してすすり泣く声が聞こえてくる。

必死でなにか話そうとするが、嗚咽がこみあげ、言葉を発することができない。

会場が静かになる。大粒の涙をぽとぽと落としながら、むせび泣く総経理。

〝みなさん。すみま…せん。

絞り出すように言葉を発した次の瞬間、一斉に拍手が起こった。

女性従業員たちが駆け寄り、ティッシュや水を総経理に手渡す。

見れば、勤続20年を超える、おばちゃんワーカーさんたちがもらい泣きをしている。

なぜか僕も、うるうるしてしまった。


あっ、ビデオ、ビデオ!

慌ててスマホを取り出し、撮影を始めるが、時すでに遅し。

総経理の泣きのピークは過ぎ、平常心に戻っていた。

もう一度泣くことを期待して、撮影を続けたが、総経理のあいさつはそのまま終了した。

だが、この総経理の涙が、場内の空気を180度変えてしまった。

弁護士からの補償についての説明に入っても、みなおとなしく、説明に耳を傾けていた。

途中、コンババ購買員が大声で何か言いかけたが、後ろの20年選手おばちゃん工員

たちにたしなめられた。

結局、誰一人暴れることも、暴言を吐くこともなく、従業員大会は1時間少しで終了した。


終了後、わっと一斉に弁護士のもとへ従業員たちが質問に駆け寄る。

弁護士の先生は誰一人邪険に扱うことなく、丁寧に対応してゆく。

総経理は門のところで、出ていく従業員の一人一人と握手をしたり、ハグを交わしたり、

一緒に記念撮影をしたりしている。

す、すごい。

総経理の涙は、きっと小保方さまが流したあの涙の破壊力に匹敵する、

と僕はひとり感動していた。

野々村議員も真っ青になるほどの号泣パフォーマンスで、従業員たち(特におばちゃん)

のハートをがっちり掴んでしまったのだ。

キャーッ!す、す、素的すぎるーっ!


あとで本人に話を聞けば、目の前に座っている130人の従業員たちの純粋なまなざしを

見ているうちに、思わず涙がこみ上げてきて、号泣してしまったのだという。

怒りに燃えている人たちを前に、全ての人を愛おしく思えるなんて、マジすごいと思った。

そうそう、覚えている方もいらっしゃるかもしれないが、この総経理こそ、

軽井沢のアンフィニでシェアした、スカイダイビングの最中、真空状態になった時に

地球と一体になったという、あのビジネスマン総経理なのだ。


その後、僕はオフィスに戻り、辞めて行く出納係とふぁちゃんの引き継ぎに立ち会った。

金庫の鍵や銀行のカード類を受取り、現金の棚卸をする。

辞めていく出納係の女の子はいらいらしていて、ファちゃんを罵りながら、買掛金の伝票を

投げつけたりしている。

「わたしは引き継ぎなんかする義務はないんだからね。」

と出納係の彼女は吐き捨てるように言い放ち、すたすたと去っていった。

赦しを知っているふぁちゃんは、何も反応せず、ただ、「元気でね。」と

笑顔で去っていく出納係を見送っていた。

「もう第二の彼女は現れないよ、赦したからね。」と僕はふぁちゃんに言った。


こうやって僕たちが大いなる赦しの日を過ごしているころ、ホテルの会議室では、

経営陣と日本人駐在員たちとの個別面談が行なわれていた。

ここで初めて、彼らの具体的な異動先が告げられるのだ。

日本へ戻される者。新工場へ異動する者。別の委託加工先の工場へ出向させられる者

など、行先は様々だ。どの人の条件も今よりも良いとは言い難い。

大都市深圳から、辺鄙な田舎の工場へ。日本へ戻る者も、東京本社に戻れるわけもなく

ど田舎のオペレーションセンターなどへ異動となる。

中でも、あの購買部長は、香港で借りているアパートを出て、

今後は田舎で単身赴任を強いられることになるという。

みんな、かなりブーブー言っているが、ストーリーは出来上がっている。

僕はこれまで通り香港勤務だが、この駐在員部長たちを赦すことによって、

自分は何もせずに同じ設定を解除してゆける。彼らの背後にいる腰ふりふり兄貴に感謝だ。


↑ 俺はまだ納得できねえな、という表情の人も…。

僕の大いなる赦しの日は、こうして監禁されることもなく、傷つけあうこともなく、

午後3時には全員が承諾書へサインをし、平和的に幕を閉じた。

夜中まで書類作成をして案を練ってくださった敏腕弁護士の皆さん、

日本人の心意気を見せた総経理、そしてこれから清算業務を手伝ってくれるふぁちゃんたち

何より、新しい道を選ぶことになる従業員の兄弟たち、赦させてくれてありがとう。

振り返って見ると、僕は何もしなかった。すべては周囲にいる兄弟たちが事を運んでくれた。

今になって、彼らはみんな僕の兄貴だったのだと分かる。

思い返せば、緊張はしていたが、怖くはなかった。

今、全ての人たちが愛に見えているのは、その都度その都度でシナリオに

飲み込まれそうになる僕を、聖霊が兄弟を通してサポートしてくれていたからだろう。

あのコンババ購買員も今では、どこか懐かしい、愛の光にしか見えない。


いま、なんか、またひとつの夢から目覚めた感じがする。

光の中で目覚めたとき、

「なあんだ。全部夢だったんだ。自分はなんにもしていなかった。

罪なんて犯してなかったんだあー。ああ、よかったあー。」 と安堵の喜びをかみしめている。

やがて、圧倒的なハートのひゅんひゅんがやってきて、

これらの記憶もかき消されてゆくのだろう。

まるで、目覚めたとたんに忘れてしまう夢の記憶のように。