昼懐石を食べに行った。
いつも味の濃い食事ばかりしているので、
素材を生かした出汁だけの味付けに、
神を感じた。
父母の年季の入った顔をじっくりと眺める。
特に父は若返りが著しい。
肌はつるつるしていて、しわもほとんどない。
頬にあった大きなシミもその中心部から、
白い皮膚に変化し、だんだん小さくなりつつある。
「お父ちゃん。白髪がなくなってきたんちゃう?
ひょっとして、染めてんのん?」と僕。
「いや。なんもしてへんで。それがな、最近、
勝手に毛が生えてきよんねん。」と父が答える。
「そら、毛は生えてくるやろ。」と僕がツッコむ。
「それがな。新しい毛が束になって生えてきよるねん」
そこへ母が口を挟んでくる。
「身の回りのことウチが全部やってるんやもん。
お父さんはなんも考えんでええから気楽なもんや。
若返って当たり前やわ。
見てみ。わたしなんかしわだらけやろ。
わたしなんて毎日ふらふらになりながら
家事やってるねんで。この前も、階段から落ちて
鎖骨にヒビ入っても誰もなんもしてくれへん…。」
母の愚痴は続く。
父はそれでもニコニコしながら聞いているだけだ。
母はそれが癪らしく、言葉もきつくなる。
母は父のことが好きだし、大切に思っているのだが、
どうしても「ありがとう。」の一言が言えない。
僕はただ、ふんふん、と母の話に相槌を打ちながら、
ここぞ、というところで話題を変える。
二人を前に、ある感慨が湧いてくる。
なんだ。これは…。
どんなに頑張っても、最後は無で終わるんじゃん。
どんなに愛に恵まれ、幸せな生活を送ったとしても、
やっぱり最後は無に帰する。
そして、このへんちゅくりんな世界は、
例外なく自分からでているという事実…。
目の前で起こっていること、見えていることは全部
自分が創りだし、投影し、知覚しているということ。
責任は全部自分にある。
自力で創ったこんなヘンちゅくりんな世界を、
創ったのはわたしであることを認めます。
これを全部、兄貴の贈り物と交換して下さい。
真の〝ハートの眼〟で罪のない兄弟を見たいんです。
香港への帰りの機内。
スマホがフリーズし、何もできないので、
ただ機内で上記のように宣言しつづけた。
途端に、ぐぐぐぐ、とせり上がってくるものがあり、
ひとり機内で号泣…。
トイレから戻ってきた隣りの席の女の子が、
泣いている僕を見て、さりげなく飴ちゃんをくれた。
〝現実は自分が創っている。〟
「ああ、それ知ってる知ってる!」
でも全然分かってなかった。
本を何百冊読んだって、
やっぱり砂糖を実際に舐めなきゃだめだと実感した。
そして、そうなる為の行為が兄貴への祈りなのだ。
最後に、
香港の自宅に戻ったら、スマホが正常に戻ってた。
兄貴の計らいを思って、またちょっと泣いた。
今日は涙もろい一日でした。