香港さんといっしょ!ー純粋非二元で目醒めを生きるー

欲望都市香港で覚醒した意識で生きることを実践中。今回を最後の生にするための日常を綴っています。

『ジンジャー・タウン』 からいくつか抜粋

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↑ たむらけんじ氏『一千一秒物語』より

〝弱虫N氏〟

星がまたたく夜、

床一面に枯葉が敷きつめられたバーで、

僕はN氏とバーボンを飲んでいた。

「なあ、キミ」N氏が言った。

「なんですか」僕が答えた。

「ちょっと僕になってみる気はないかな」

「えっ?」僕がN氏を見た。

「まあ君にその気があればの話だが」

見ると、N氏は手にしたバーボンのグラスを

見つめながら薄笑みを浮かべている。

「僕があなたになれば、あなたはどうなるんですか」

僕がN氏に質問した。

「大丈夫。問題ないよ」

自分の胸の前で右手の人差し指を立てながら、

N氏が言った。

「僕は星か、君かの、どちらかになるから」

琥珀色に光るバーボンをN氏が一気に飲み干した。

グラスの氷を揺らしながら話すN氏を見ているうち、

僕はなぜかむかっ腹が立ってきて、

しまいにはカウンターをばんと手で叩いていた。

「ふん、だれが君を星になんか。

ましてや君を僕なんかにさせるものか」

僕はN氏を指差して言った。

「何だと。この弱虫野郎!」

次の瞬間、僕はN氏に胸ぐらをつかまれていた。

「ああ、弱虫でけっこう」

僕もN氏の胸ぐらをつかみ返そうとしたが、

そのときにはもう、彼は青白い光を放ち始めていて、

やばい、と思ったときには手遅れだった。

(『ジンジャー・タウン 第一章 流星』より) 

 

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〝逃げ出した彗星〟

月のない夜、畑の中の一本道を

提灯片手に歩いていると、空に流れ星が流れ、

森の中へ落ちたと思ったら、それがいきなり、

森の茂みの中から飛び出してきて、僕にぶつかると、

ひゃひゃひゃ、と笑いながら丘を転がってゆき、

最後は〝ボン〟と弾けて消えていってしまった。

(『ジンジャー・タウン 第一章 流星』より) 

 

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〝たそがれカクテル〟

ある大富豪が主催するカクテルパーティーに出席した。

そのパーティーはレンガ造りのビルの屋上で行われ、

夕方6時きっかりに始まった。

夕陽が辺り一面をオレンジ色に染めるなか、

タキシードを着たバンドの一団が、ジャズを奏で、

その中をきれいに着飾った人たちが、

ゆらゆらと行ったり来たりしていた。

心地よい秋風に女性たちのドレスがひらひらと揺れ、

なんともいえない風情を醸し出していた。

このパーティーでは、区切られたブースごとに、

幾人ものバーテンダーたちが、

参加者の注文通りのカクテルを作ってくれるということで、

各ブースには、

たくさんのリキュールが所狭しと並べられていた。

僕は一番年配のバーテンダーがいるブースへ行き、

カクテルを注文しようとした。

「どんなカクテルをご所望ですか」

彼が微笑みながら、ゆっくりとした口調で訊いた。

「どんなカクテルでもつくって差し上げますよ」

彼は穏やかな笑みを浮かべ、こちらを見つめている。

「それじゃあ、本当に生きている人とそうでない人を

 見分けるカクテルを作って下さい」僕が言った。

「かしこまりました」

年配のバーテンダーは、しばし挑戦的な眼差しを

僕に向けてから、カウンターに並んでいるいくつもの

リキュールを計量カップではかりはじめた。

最後に茶色いビンを取り出すと、その中の液を、

2、3滴シェーカーに垂らすと、僕に微笑みかけてから、

シェーカーを振りはじめた。

カラカラという小気味よい音があたりに響く。

「さあ、どうぞ。できましたよ」

グラスに注がれた液体は濃いぶどう色をしていた。

「強烈ですので覚悟してお飲みください」

「ありがとう」

僕はグラスを受け取り、礼を言ってその場を離れた。

夕日にグラスを透かせば、紫色の液体が、

琥珀(こはく)色に変化した。一口啜ってみた。

甘酸っぱいリキュールの味が口いっぱいに広がった。

そのあと、なんとも言えない渋味が舌の上に残った。

その渋味を感じた途端、意識が遠のいた。

そして、かすんでいく意識の中で、

ただおぼろげに覚えているのは、

〝外側〟を見ている人たちや、

〝内側〟を見ている人たちの群れと、

その人たちを見つめる一羽の赤い鳥の姿だった。

 (『ジンジャー・タウン 第二章 月光 』より)

 

〝ぷるぷるカクテル〟

初めて行くバーのカウンターで友人を待っていると、

年配のバーテンダーがやってきて、

「何かおつくりしましょうか」と言ってきた。

よく見ると、先日、夕暮れのカクテルパーティーで、

僕に本当に生きている人とそうでない人を見分ける

カクテルを作ってくれた人だった。

「じゃあ、なにかプルプルするようなカクテルを…」

バーテンダーは落ち着いた表情でかしこまりました、

と返事を返すと、シェーカーを手に取った。

前回同様、さまざまなリキュールを計量カップで計り、

最後に茶色い瓶の中の液体を数滴シェーカーに垂らした。

「どうぞ。プルプルです」

バーテンが真っ赤な液体が入ったカクテルグラスを

僕の前に置いた。

そっと口へ運ぶ。酸味の効いたリキュールの中から、

ほんのり甘さが広がってくる。

二、三口啜ると舌がピリピリしてきた。

しばらくして近くのテーブルでけんかが始まった。

一人がテーブルを叩き、もう一人が胸ぐらをつかむ。

そのはずみにテーブルのジョッキが倒れ、

中のビールが僕のズボンを濡らした。

やがて二人は店員に店の外へとつまみ出された。

「ご迷惑をおかけしたお詫びです」

と言って、バーテンがさっきと同じカクテルを、

僕の目の前に置いた。

友人がやってきた。彼はやってくるなり僕を指差し、

「お前のせいだ」と言った。

「いいがかりだよ」と僕は言い返したが、

彼は頑として聞かない。

最後には「絶交だ」と言って出て行ってしまった。

やけ酒のつもりで僕は三杯目のカクテルを注文した。

今度は頭が痛くなってきたのでトイレで顔を洗った。

トイレを出るとき、背の高い男にぶつかった。

すみませんと謝ると「気をつけろ!」と怒鳴られた。

もう帰ったほうがよさそうだとバーテンに勘定を頼み、

ズボンのポケットから財布を取り出そうとしたら、

財布が見当たらなかった。

バーテンダーに事情を話すとお勘定は今度でいいという。

「わかっていますよ。あのカクテルを飲んだときは、

 決まってこうなるんです」

心がプルプルするカクテルを頼んだのに、

全然プルプルじゃないじゃないか、と思いながらも、

僕は「おやすみ」と言って店を出ようとした。

「あら。もう帰っちゃうの?」

近くのカウンターにいた女性が話しかけてきた。

「よければ一緒に話さない?財布失くしたんでしょ。

 ご馳走するわよ」

僕が返事する前に彼女は、カクテルを二杯注文した。

「さっきからあなたのこと見てたけど、すごいわね。

 もう完全に終わってるって感じで」

「ええ。今日の僕は完全に終わってますよ。

 それに気分も悪いし、もう帰ります」

「そういう意味で終わってるんじゃなくて。ていうか、

 あなた、すでに身体が半分透けちゃってるわよ」

「えっ!」

彼女に指摘され、自分の両手を空中にかざして見てみた。

指先が半分透けて見える。

「あなた、ひょっとして、いよいよ、なんじゃない?

さっきだって、何が起きても反応してなかったし」

「そう言えば、そうだったかもしれませんね」

カクテルが来た。とりあえず乾杯した。

「これはもう、完璧にいよいよ、だわね」

「そ、そうか。いよいよなんだね」

僕はなんだかすごく愉快になってきて、

大声で笑いだした。

「そうよ。見てよ。あたしまでいよいよなんだから」

彼女まで両手を空中に透かしながら笑いだした。

「そうですね。もういいんですよね。いよいよに委ねて」

「そうよ。もういいのよ」

それからは、楽しくて楽しくて、

僕たちはずっとその場でプルプルしていた。

 (『ジンジャー・タウン 第二章 月光 』より)