👆 今日は一日、家で創作活動
飲んでいるのはラム酒のロック
日本語教師の養成学校は折り返し地点を過ぎ、
4月の卒業を目指して授業演習が佳境に入りつつある。
生徒は全部で26名いるのだが、実はその中に
ずっと気になっている女性がいる(正確にはいた)のだ。
といっても、異性として好意を持っているとかではなく、
何というか、気ざわり、というか、カンに障る、というか
何かをされたわけでも、言われたわけでもないのに、
また、こちらをイラっとさせるようなことをしている
わけでもないのに、なぜか気になって仕方がないのだ。
彼女は通路を挟んだ斜め前の席に座っていて、
年は25~6歳くらい、長い髪をきれいにカラーリングし、
メイクもバッチシで、まあ、今時のきれいな女子である。
服装もファッショナブルだし、スタイルもよい。
彼女は授業中、ずっと机の下でスマホをいじっていて、
そうでない時は居眠りをしている。
先生が「ここ試験に出ます」と言った時だけ顔を上げ、
ささっとノートを取ると、またスマホを始める。
だいたいインスタを見てるか、バズドラをしている。
(僕の席が斜め後ろなので丸見えなのだ)
異性だし、年齢も離れているし、話したこともないし、
それに、彼女が授業中にスマホを見ていようが、
ゲームをしていようが、自分には何の影響もない。
きれいな人だなあ、で終わっていてもいいはずなのに
何でこんなにも〝カンに障るのか〟と不思議だった。
とはいっても、彼女も僕の〝カケラ〟なので、
きっと、赦すべき何かが浮上してきているんだろう、と、
自分の中を精査してみたのだが、どうしても判らない。
話しかけてみようかな、とも思ったのだが、
共通の話題もないし、それに彼女はどこか、
人からどう見られるかなんてどうでもいい、というような、
わが道を行くタイプでもあり、話しかけずらかった。
それで、しばらく放っておいたら、ある日、
その彼女が、僕の隣にいる生徒さんに、
模擬実習の日を変わってもらえないか、と言ってきた。
それで僕も入って、三人一緒に喋ったのだが、
彼女曰く、三月の下旬から2週間台湾へ行く予定で、
その間、どうしても模擬実習に出席できないのだという。
訊けば、彼女は、とあるK-POPアイドルグループの
追っかけをやっていて、今回、そのグループの
台湾ツアー全てに参加するらしい。
中でも、彼女の推しメンは、
最前列にいるファンにだけに話しかけたり、
見つめ合ったりしてくれるため、
彼女は今回、(コネを使い)1ステージ12万円で、
全ツアーの最前列の席を押さえたのだという。
それは台湾のツアーだけでなく、日本ツアーも
同じように全ステージ最前列で参加しているという。
その他にも、推しメンと握手をするために、
CDを170枚買った、とか、少しでも彼を感じたくて、
最近まで、韓国のソウルで実際に働いていたとか、
話を聞いているだけでも圧倒されっぱなしだった。
しかし、その推しメンに興味がなくなると、
すぱっと切って、新しい推しメンに乗り換えるのだそう。
「お金なんて好きなことに使わないと意味がない」
と彼女は言いきった。
きっと、彼女が授業中にスマホばかり見ているのも、
その推しメンの情報を常にチェックしていたからだろう。
そして 「ああ、これかあー」と納得した。
人から何を言われようと、全く意に介さず、
自分が好きなものを好きだ、とわが道を行く
彼女の強さに僕は反応していたのだ。
台湾移住のことしかり、小説のことしかり、
あと、年齢とか、親のこととか、保障のこととか、
常識に照らして将来をちんまりまとめようとする
自分に対して 「これが私よ、文句ある?」と、
自分のカケラが、彼女となって出てきたのだ。
この時以降、彼女の事が一切気にならなくなった。
これからは力強く、自分の中を生きてゆく。
今の自分が過去を肯定しているように、
どんな決断をしても、どんな行動を取っても、
きっと、未来の自分が、ちゃんと受け止め、
優しくそれらを肯定してくれると思うから。