京都の由緒ある料亭にて、
大河ドラマ〝光る君へ〟の世界を満喫したあと、
三条通りにある隠れ家的バー〝雪月花〟へ…。
ここは、大正期の銀行の建物を改装した、
クラシカルな雰囲気漂うバーで、葉巻も吸える。
T医師はワイン、僕はジンリッキーを注文した。
そこで、色々話しているうち、彼が突然、
「俺、ある人に、自分の前世を見てもらってん」
という話を始めた。
僕も15年ほど前に、前世療法を何度か受けており、
その時に見えた前世が江戸時代のキリシタンで、
唯一の身内である兄は、キリシタン弾圧で命を落とし、
また別の前世では、フランス革命時代の貴族で、
当時、無二の親友と酒場で飲んだくれていた時に、
革命勇士に銃で撃たれて死ぬ、というものだった。
この話をすると、T医師は顔色を変え、
自分が伝えられた前世も、江戸時代のキリシタンで、
また、フランス革命時代の貴族だった、と述べた。
そこで、二人の中で、電流が繋がるように理解が走り、
僕の前世での、キリシタン時代の兄と、
フランス革命時代の親友はT医師だった、
ということがバーンと明らかになった。
そのことを告げると、彼も何かが腑に落ちたらしく、
そうだ、そうだ、思い出した、と、
しきりに頷いていた。
T医師の場合は、人の前世を見通せるという人から、
あなたの前世はこうこうこうでしたよ、と、
言葉で伝えられただけだったらしいが、僕の場合は、
寝椅子に横たわり、先生による退行催眠の誘導で、
はっきりと当時の映像が見える、というものだった。
「それでは、今と最も関係が深い過去世に行きます」
1、2、3、パチン、と先生が指を鳴らした次の瞬間、
わわわっ、とその当時の映像が立ち上がってくる。
映像だけでなく、その時の自分の状況、例えば、
当時の自分の名前とか、今は天保何年だ、とか、
着ていた着物の柄まではっきりと見えるのだ。
そういった事柄を、先生が聞きだし、メモをする。
そして、セッションの後、前世の分析をしてもらう。
それによると、キリシタンだった僕と兄(T医師)は、
当時、キリスト教の拠点であったマカオに憧れていて、
僕が香港にいたのも、そのことが影響しているらしい。
セッションは、5時間くらいかかったと記憶している。
アンビリーバボーにも出た女性のセラピストだった。
そんな話をしながら、お酒を何杯もおかわりするうち、
大阪へ戻る終電を逃してしまった。
仕方なく、僕はT医師のアパートに泊まることになり、
リビングのソファで酔い潰れて寝てしまったのだった。
あくる日も、フルで診察をせねばならないT医師に、
多大な迷惑をかけてしまい、申し訳なさ一杯だった。
というわけで、思いもよらない京都の夜となった。
今世でもT医師は僕のお兄ちゃんであり、
弟のように可愛がってもらう存在であった。
でももう、僕は生まれ変わりたくない。
なので、僕の余生は、
最後の生にするための人生となるのだろう。
そして、
「今年の夏は何もしない、とか言いながら、
こいつ結局、酒ばっかり飲んどるやないか!」
と思ったそこのあなた、
「そのとーり!」(竹本ピアノ…)