
前期試験の追試があり、監督のため出講したのだ。
僕が受け持つクラスの追試の生徒は10名で、
論文クラスが6名、国文法のクラスの生徒が4名だ。
試験は5人の先生が監督にあたるのだが、
試験終了間際、女性の先生が突然、
ネパール人男子学生の学生証を、さっ、と取り上げ、
「今すぐ試験を中止して出ていきなさい!」と告げた。
見れば、学生証の裏に、びっしり文章が書いてある。
それは、論文の試験にでてくる文章で、
主要な個所を抜粋して書きだしている。
論文ってカンニングのしようがないと思っていたので、
学生証の裏に書かれた文を見て愕然としてしまった。
この生徒は、
日本語能力検定試験の2級(英検2級レベル)
を持っているのに、ひらがなもろくに読めないので、
他の先生たちの間でも、不正をして合格したのでは、
とささやかれていた、いわくつきの生徒だった。
(検定試験の2級はネパールで取得したものである)
主任教官は、断じて許さない姿勢で、
多分退学処分になるだろう、とその生徒に告げた。
すると彼は、
「まだ、学生証の答えを見ていないのでセーフだ」
「学生証の裏に下書きをしただけ」
などと言い訳を始めたので、ブチぎれた僕が、
「事務局に報告して退学処分にしてもらう」と言うと、
「学校は絶対にやめたくない」と首を振る。
「じゃあまず、自分がカンニングをしたことを認めろ。
私はカンニングをしましたと認めて謝るのが先だろ」
と怒鳴ったら、
「カンニングしました。悪いことです。ごめんなさい」
とぽろぽろ涙を流して謝った。
退学になれば、就労ビザが取り消され、
日本で働けなくなるので、留学生には一大事である。
それでも不正は不正なので、会議を開いて検討し、
処分については後で連絡します、と言って帰した。
うちの学校はカンニングに関してすごく厳しい。
真面目に勉強している生徒がバカを見ないためだ。
それに、20歳そこそこの学生に不正を許すと、
社会に出てから、もっと大きな不正をする可能性が
あり、本人のためによくない、という観点もある。

夜、焼き鳥屋でシスコ兄貴にこの事を話すと、
「ぼくらも学生の時はカンニングしまくってたやん。
怒るだけ怒ったら、大目に見てやったらええやん」
と、かなり寛大だ。
彼も40歳近くになってから単身アメリカへ渡り、
寝る間もなく働きながら看護師の資格を取ったので、
苦学生たちの心情も理解できるのだろう。
まあ、退学処分というのはハッタリな部分もあるが、
常識のレベルが異なる国から来た留学生に、
やってはいけないことを教えるのも教師の役目だ。
とまあ、教師って大変だ、としみじみ思った僕である。