
ここ数カ月、まったく小説創作を行なっていない。
物語の神さまが、ぜんぜん降りて来てくれないのだ。
生涯をかけて描きたい題材とプロットがあり、
それに専念するために、休みの多い先生になったのに、
どのように表現すればいいのか見当もつかず、
うだうだうだうだしているうちに数カ月経ってしまった。

「きっと自分にはまだ、その内容を描き切る技量と、
人間の生き様を見抜く度量が備わっていないのだ」
そう思って、一旦書こうとするのをやめ、ここ数カ月、
日々出会う人や、起きる事柄をただ見つめ、
仕事や、筋トレや、食事や、買い物、といった日常を、
ていねいに生きるようにしてきた。
カンニングをした生徒、職員室で話す同僚の先生達、
レストランで隣に座った人、スーパーの店員さん、
ときどき会って食事をする友人たち…。
誰一人、愛から外れていない。
そして、彼らが愛に輝いているのは、
僕が彼らを愛だと認めているからだ。
小説は、また書けるようになるかもしれないし、
このまま一生、書けないままなのかもしれない。
しかし、僕に小説を書かせるかどうかを決めるのは、
これまで僕が出会ってきた無数の兄弟達であり、
これから出会うであろう神の使者たちである。
平岩弓枝先生は、
物語ではなく人間を描きなさい、と言った。
小説の神さまはまさに〝彼ら〟だったのだ。