
日本の早春をとことん楽しむ、というコンセプトのもと、
2年ぶりに、柳谷観音へ行ってきた。
この日は終日篠つく雨で、参拝者は僕以外ゼロ。
お寺まるごと独り占め状態、であった。
ただ、天気は悪かったが、全く寒くはなかった。

手水舎(手を洗うための石でできた盆)には、
色とりどりの花が浮かんでいて、とてもきれい。
ハートの飾り物まで浮かんでおり、
バレンタインの名残がうかがえる。(笑)

木の階段をゆっくり上り、奥の院へと向かう。
境内は本当に人っ子一人おらず、
スタッフの人も、お坊さんも、監視カメラも、ない。
僕は、奥の院の、お香の匂いが漂う畳の上で
雨音を聞きながら、ただボーっと佇んでいた。
静けさの中でひとり、じっとしているのが耐えられない
という人がいるが、僕は全然平気。
部屋でも音楽を聞かないくらい静寂が好きである。

28観音に見下ろされながら、思考を見つめる。
あの人どうしてるかな、10年後どうなってるだろう、
今日下山したら珈琲館でサンドイッチ食べよう、
など、30分後には忘れてしまっているような、
些細な思考が雲のように流れては消えてゆく。
それを、ずっと〝ウツボカズラ大放出〟していた。

この思い、全部、詐欺師が出す自動誘導信号だ、
と思うといたたまれなくなってきた。
僕は奥の院の畳の上に大の字になった。
足が仏様の方に向いていたので、
あ、いけない、と思い、慌てて向きを変えた。(笑)

「僕と思い込んでいる全てを持っていってください」
と、声に出して呟いていた。
「全て捧げますから、どんなことでもしますから、
僕をこの夢から連れ出してください。
それ以外のことはもう何も望みません!」
僕は懇願していた。誰に?わからない。

得体の知れない靄(かすみ)のようなものが、
シュワシュワと、仰向けになった僕の身体から、
立ち上がっては消えてゆく。
「こんな狂った世界、もう、うんざりなんです。
この星谷周作が消えるのならそれでも結構!
だからお願いします。僕を助けてください!」
まるで熱にうなされたように、僕は唱え続けていた。
優しい静謐さに満ちた奥の院を後にした。
香港にいた頃は、どこもかしこも人、人、人、で、
常に動き続けていたから、
神と向き合う貴重な時間だった。
神と向き合うには、静寂が必要だった。
6月には、奥の院へ続く斜面一面に、
あじさいの花が咲き乱れるという。
そのころ、また神に会いに来よう!