神としての父ではなく、肉親である実父のことだ。
土手に開いた洞穴の中に父はいた。
夢の中の僕はまだ小学6年生くらい。
なぜだかわからないが、僕は包丁で父を刺した。
それを見ていた、まだ幼稚園くらいの妹が
泣きながら、お兄ちゃん、お兄ちゃん、
と言って、僕の後をついてきた。
とんでもないことをやらかしてしまった。
罪の重大さに僕は怖れおののき、
このことは誰にも言わぬよう、妹に口止めする。
それでも不安な僕は、穴の中に隠れることにした。
穴に入り、外から土で穴を埋めるよう妹に言った。
そのとき、目が覚めた。
明るい夏の日差しが寝室の窓から差し込んでいた。
網戸からそよ風が入ってくる。蝉の鳴き声。
木々の葉擦れの音も聞こえていた。
〝ああ、夢だったんだ。助かったあー。〟
父を殺してはいなかった。
何も起こってはいなかったんだ。
僕は心底安堵した。
しかし。いや。待てよ。
たとえ夢でもこんなことをしでかす僕って…。
なんと罪深い、という思った途端、
言いようのない恐怖に襲われた。
しばし、この深い部分にある、
父(神)に対する憎悪を感じてみる。
僕の中に、こんなにも深い憎悪があったのか。
自分の中の源にある憎悪の塊りのようなもの。
それでも何も起こっていない。
罪なんか無い。よって、憎悪なんかもなかった。
それに、元から自分はここになどいない。
これすらも夢なのだと、エゴが命じる設定を、
布団の上で、静かに兄貴に返す。
〝それでも何も起こってない。罪もなかった。〟
そのことを伝えるために、兄貴が見せた夢だった。
午後『ジンジャー・タウン』の推敲をして過ごす。
主人公がジンジャータウンに入ってゆくための
トリガ―(引きがね)について考えていた。
ふと、家にある嗅ぎ煙草の容器が目に止まった。
もともと20個くらいあったのだが、
チョイ姐が年に1〜2個のペースで割った結果、、
最後はこれだけになってしまった。
早速嗅ぎ煙草について調べてみた。
なかなか奥が深い。
おもにイギリスやドイツで造られていて、
鼻煙壺と呼ばれる容器は美しく、
さまざまな芸術品として取引されている。
レモン味や、ジントニック味など、
いろいろな味のタバコを造れるらしい。
よし、嗅ぎ煙草で行こう。
この不思議な嗅ぎ煙草を嗅ぐことによって、
読者は主人公と共に、ジンジャーの世界へと
入り込んでゆくことになる。
それでは、おやすみなさい。