香港さんといっしょ!ー純粋非二元で目醒めを生きるー

欲望都市香港で覚醒した意識で生きることを実践中。今回を最後の生にするための日常を綴っています。

色眼鏡屋



昨夜は10時に寝て、朝起きたら、

昨日までの体調不良はウソのように消えていた。

あれほどすごかった眠気や耳鳴りもなくなった。

あれは一体、なんだったんだろう? 不思議だ。


日本はお盆休みの真っただ中ということで、

こちらもいたってヒマである。

シッピングの女の子も今日はゆったりしている。

で、僕も自分のデスクでまったり過ごすことにする。


昼休みにジンジャータウンの推敲をした。

エージェントの人からは、

素晴らしい作品だが、原稿枚数が少なすぎ、

これでは本にできない、最低300枚は必要だ、

と言われていた。

それで、もともと原稿用紙89枚だった原版を、

2年かけて320枚まで書き足した。


非二元から純粋非二元へ移行するにつれ、

物語も次第に変化し、最後どうなっちゃうんだろう、

と自分でも不思議に思いながらも、

何とか完成させてエージェントに再度見せたら、

前回とは180度逆の、冷たい反応を受けた。

少なからず困惑したのは事実だが、

ここは全てを委ね、明け渡すしかないだろう。


自分の何がいけなかったのか、

自分はこれからどうすればいいのか、

と考えているその自分こそがいらない、

と分かってしまったら、もうほかに何もできない…。


ほんとに、何の因果で、

こんなことに気づいたしまったのか。(笑)

〝色眼鏡屋〟(『ジンジャー・タウン 夢』より抜粋)


人気のない通りを歩いていると、

色眼鏡屋の前を通りかかった。

店内では、黒いスーツをきちっと着こなした

初老の男性が、カウンターの奥で

眼鏡のレンズを磨いているのが見えた。

中を覗いていると、初老の男性が顔を上げ、

にこやかな表情で「いらっしゃいませ」と

声をかけて来た。

「どうぞ、お入りになって、見て行ってください」

初老の男性の人懐こい笑顔に誘われるように、

僕は店内に足を踏み入れた。

「どのような色眼鏡を御所望ですかな」

初老の男性は、ゆったりとした口調で、

僕に訊ねる。

「いえ。ちょっと覗いてみただけなんです。いまどき

色眼鏡なんて珍しいなって…」

僕は少しバツが悪そうに答えた。
「ここは街で唯一残っている色眼鏡店なんですが、

それも今日で閉店なんです」

「えっ、そうなんですか」

「ご存知のように、色眼鏡を着用する人も

いなくなりましたからねえ。

それにわたしももうこの通り、いい年ですし」

と、彼はさびしそうに呟いた。

「僕が幼かったころには、色眼鏡をかけている人が

まだ、ちらほらいたような気がします。

今はもう流行らないんですかね」 

僕は棚に並んでいるさまざまな色のメガネを

眺めながら言った。

「みんな必要なくなったのでしょう。昔はさまざまな

色眼鏡を楽しんだものですが、近ごろの若い人は、

もうこんな眼鏡に夢中になる必要はないのですよ」

「そうなんですか」

「一度、試してみませんか。

面白い世界が体験できますよ」

これなんかどうでしょう、と彼が棚にあった

メガネを手に取り、僕のほうへ差し出した。

僕はそのメガネを受け取ると、

耳に掛ける柄の部分を広げてみた。

見た目は何の変哲もないメガネだった。

レンズに色も付いていない。

「掛けてみてください。お似合いだと思いますよ」

男は僕の前に置き鏡を用意しながら言った。

「なんだかドキドキするなあ」僕がつぶやいた。

「試してみるだけですよ。

いつでも外せますから、問題ありませんよ」

穏やかな笑みをたたえた主人に促されるように、

僕はメガネを顔に近づけた。レンズを覗けば、

向こうの景色が歪んで見える。

そして、いよいよ装着しようとしたそのとき、

突然、一匹の黒猫が僕の方へ飛びかかってきた。

「うわあ」

猫を避けようとした瞬間、持っていたメガネを

床に落としてしまった。

「あっ、すみません」

と言って、僕がメガネを拾い上げた。

「やっぱり、今日はやめておきます。

試すのはまた今度にしますよ」

急に怖くなった僕は、主人にメガネを返すと、

逃げるように店を後にした。

通りに出て再度店の方を振り返って見た。

と、少し開いた扉の隙間から、

この世のものとも思えないほどの大きなカラスが

飛び出してきて、チッ、とひと鳴きしたかと思うと、

空の彼方へと飛び去って行った。

僕はなぜか、とてもほっとした気持ちになり、

急いで、家路についた。