ここから少し夢のストーリーをお話しすると、
前回、僕が金庫の鍵や会社の印鑑を全て持ち出し、
事務員の彼女から、これは窃盗だ、通報する、
と脅されたため、今回、僕は事務所へは行かず、
本社から出張してきた女性課長(45歳/独身/やり手)
が、ことの処理に当たってくれることになった。
そのため、
僕は弁護士さんとの打ち合わせを終えたあと、
その女性課長と日本居酒屋で落ち合った。
二人焼き鳥を注文し、ハイボールで乾杯する。
女性課長が言うには、その事務員の彼女は、
最初、印鑑類を持って行った僕を非難していたが、
財務印を隠し持っていたことを追及され、
上海の日本人商工会で今回の件を全部話しますよ、
と告げた途端、態度が急変し協力的になったという。
日本への留学経験があり、日本語を武器に、
上海で仕事をしている事務員の彼女にしてみれば、
上海の日本人の信用を失うことは破滅を意味する。
この女性課長は、そういう彼女のウィークポイントを、
ポンとついて見せた、というわけである。
さすが…。
「社長はじめ、もう誰もあなたを信用していませんよ。」
という女性課長の一撃で、事務員の彼女は黙ってしまった。
まあ、こういうやり方が、良いか悪いかは別として、
僕の夢の設定はこのように進行していった、
というわけである。
そして、そんな、
大いなる赦しの日の前哨戦真っ只中にあって、
ようやく手放しつつあることがある。
それは〝続けなさい〟というエゴの脅迫観念だ。
仕事、企業、夫婦生活、家系、国家、生命、肉体…、
または、名声、富、趣味、自分が愛する何か、など、
一秒でも長く続けていること、継続させていることが
何よりも重要である、という思い込みである。
定年まで勤め上げるほうが、退職金や年金も貰え、
いいに決まっている。
少々のことがあっても、婚姻生活は続けるべきだ。
家系を存続させるために男の子を生むのは当然だ。
国家を守るためなら戦争もやむを得ない。
この地位を守るためなら、どんなことでもする。
云々…。
続けることを意識した時点で〝今の平安〟は消える。
将来の幸福のために今を制限しはじめる。
〝それ〟が続いている間は平安だ、と思うものの、
裏を返せば、常に奪われる不安にさらされている。
この事務員の彼女も、女性課長も、そして僕自身も、
続けるために(あるいは守るために)戦っている。
でも、結局、この夢の世界で、
続いているものなど何もなく、
続いている事実などどこにもなく、
続けている人も存在しない。
いま、この瞬間があるだけなんだ。
上海からの帰りの飛行機の中、
今回の出張で起こった出来事を思い出しては、
いろいろと妄想劇場したり、それを赦したりしていた。
そうやって〝いまここ〟にはいない人たち、例えば、
あの事務員の彼女や女性課長や日本の両親のこと
などに想いを馳せていたとき、ふと、
自分が見ている今しか、見られるものは存在しない
という物理の法則を思い出した。
目の前で観察されているもの以外が全て波なのなら、
いま、僕は、存在しない人たちに思いを馳せ、
憎んだり、怖がったり、愛したりしていることになる。
〝この世のものは自分を騙す嘘なのだ。〟
という、デイヴィッドの言葉がを思い出された。
目の前にいない人の考えることは、
幽霊や死人のことを考えるのと同様、無意味なのだ。
なぜなら、彼らは波になっているから…。
それからすぐ、機内に意識を戻した。
身体の稜線がぴったりと浮き出る、
キャセイ航空のセクシーな制服を着たCAさんが、
飲み物を薦めてきた。
僕は、いまここに見えているCAのお姉さんに、
白ワインを注文した。
彼女が笑顔でワインを手渡してくれた。