見ている世界が丸ごと聖霊で満たされてしまった。
それは、どの兄弟にも無罪しか差し出さない、 と、
決意できたその日からはじまったような気がする。
眼前に現れる兄弟たちから何を差し出されようと、
頑として、無罪だけを差し出し続けていると、やがて、
その時々で出会う人や物や事が無罪性で輝きだし、
肉体の目で見えている光景によって、
これは自我か聖霊かを選択(判断)することに、
何の意味も見出せなくなってしまったのだ。
そうこうしているうちに、周囲の人達が変わり始めた。
以前から、みんな優しい、と何度も書いては来たが、
もう、そんな域を超えている。
そんな中、
ある会社の面接を受け、内定をもらった。
東京に本社がある日系商社の香港支社で、
法務と財務を担当するポジションだ。
もう、東京へ帰る腹づもりでいたので、
香港での就活はしていなかったのだが、
一年以上も前に登録していた人材紹介会社から、
突然、連絡があり、この会社を紹介された。
まあ、今の会社の事情も事情だし、
「会うだけでも、会ってみたら?
嫌なら、いつでも断ればいいんだから。」と、
お見合い話を持ってきた親戚のおばさんのような、
人材会社の女性の口調にほだされ、面接を受けた。
40歳代の管理部長と第一面接を行なった。
この方が僕の経歴を非常に気に入ってくれ、
是非入社してほしい、とその場で言われた。
第二次面接では支社長と会い、そこでもう、
僕を採用するための稟議が下りていると言われた。
条件面では、給料の総額自体は今よりいいが、
現地採用なので、家賃は自分もちで、
健康保険や年金加入もない。
ただ、香港でこのままずっとやっていくのであれば、
駐在員のように日本へ帰任する必要がなく、
気楽と言えば気楽だ。
それになにより、今回面接をして下さった方々が、
とても優しく、穏やかで、
一緒に仕事ができたらさぞ幸せだろうな、
と思えるような方々だった。
そうやって、二回の面接の末、採用となった。
「星谷さん。先方から熱烈なラブコールが来てますよ。
こんなによい条件、滅多にないわよ!」
あなたの年齢で、とまではさすがに言わなかったが、
お見合いの仲人さん、もとい、人材会社の女性も、
親身になって、相手側と交渉してくださっていた。
「今週末、よく考えて結論を出します。」
と、答えて電話を切った。
ふっ、と、今いるオフィスに意識を戻した。
コンババ部長から電話が入った。出る。
色々と業務上のやり取りをした後、電話を切る時、
「いろいろ本当にありがとうございます。」
という優しい相手の声を聞いたとき、
胸の底から幸せな感覚が込み上げてきた。
企業の中にあってこんな環境は奇跡だ、と思った。
なので、転職するしない、は、もうどうでもいい。
東京へ帰任してもしなくても、そんなの関係ない。
ただ、相手に無罪性だけを差し出すことで、
本当に奇跡は起こるのだという事実に感動していた。
そして、今回の件を通して感じたのは、
両者に差異を見れなくなっている、ということだ。
どういうことかと言うと、
両者のうちのどちらか一方を選択しようとすると、
比べようとする対象物になんらかの差異、
すなわち、必ずどちらかが劣っている必要がある。
しかし、聖霊を選び、両者に差異を見なくなると、
必然的に〝選ぶ〟ということは不可能となってしまう。
それでも、この夢の現実の中では、
一瞬一瞬が小さな選択の連続なわけで、
最終的にはどちらかを選ばなくてはならない。
なのでいまは、一切の自分を脇へ追いやり、
ただ、兄貴だけに強烈に一点集中しながら、
別の解釈を与えてください、と祈っている。