26年間〝香港の本音〟を伝え続けてきた新聞
アップルデイリー(蘋果日報)が、
6月24日を以って廃刊となってしまった。
僕が香港在住27年だから、
ほとんど、この新聞と同じ年月を歩んできた。
何しろ取材力がすごくて、それもオールカラー、
日経と東スポを一緒にしたような新聞だった。
他紙が中国共産党に迎合する記事を書く中、
香港で唯一、反中共として、
香港の民主化を訴え続けてきた新聞であり、
いわば、香港の民主の象徴でもあった。
しかし最近は、中国共産党に忖度した企業が、
この新聞に広告を載せなくなったり、
CEOや幹部が次々に逮捕されたりして、
存続が危ぶまれていたが、多くの市民の援助で、
なんとか発行が続けられていた。
しかし今回、国家安全法に違反したとして、
アップルデイリーの全ての資産が凍結されたため
事実上、経営が困難となってしまった。
それで、最後の新聞が発行される24日の朝、
僕は早起きして新聞スタンドに向かった。
スタンドには長蛇の列ができていた。
それでもなんとか、
売り切れ寸前の最後の新聞を買うことができた。
市民はみんな、
政府機関御用達の〝大公報〟をはじめ、
そのほかの新聞には目もくれない。
それを見て僕は〝本音〟と言うものが
いかに大切かということに気づかされた。
本音というのは〝本当の音〟と書く。
いくら、上っ面だけで色んなことを言っても、
僕たちは本当の音を感じる力を持っているのだ。
よく考えてみると、
「中国共産党の存在価値さえ脅かさなければ、
いくらお金を稼いでも大丈夫ですよ、しかし
何が良くて何がだめかは我々が決めますから。
従わなければエライ目にあわせますよ」
という脅迫は、普段、自分の頭の中に鳴り響いて
いる自我の声そのものではないか。
ある人にとってそれは、父親や母親の声として、
ある人にとっては上司の声として聞こえたりする。
僕達はいつもその声に怯え、
本来の自分ではない行動を取ってきた。
本当の音を出さなくなってしまったのだ。
というわけで、これからはどんなことがあっても、
怖れずに本当の自分を表現して生きよう、
と心を新たにした一日だった。