先週の土曜日のことである。
僕はもう少しで警察に捕まるところだった。
その日、
夕食の買い物がてら近所を歩いていると、
陳東里の短い路地にあるカフェの前で、
音楽イベントをやっていた。
選挙カーのような車の上に小さなブースがあり、
その上でDJがノリのいい音楽を流している。
路地には100人ほどの若者たちがいて、
音楽に合わせてステップを踏んでいた。
家の近所では、こういうイベントがよくあるので、
(なんと言っても僕は、香港の渋谷、
コーズウェイベイに住んでいるのだっ!)
ブログのネタに写真でも撮っておこうと思い、
僕も路地の方へ近づいて行った。
と、そのとき突然 「中止!中止!動くな!」
という怒声とともに、路地の両側から、
警官隊がどっわーとなだれこんできて、
あれよあれよという間に50メートルほどの路地は
警官隊によって封鎖されてしまった。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
警官たちは逃げ惑う若者たちを威嚇しながら、
どんどん壁際へと追いつめてゆく。
僕はと言えば、
警官が張ったテープの10センチ外側にいたため
間一髪でなんとか難を逃がれることができた。
やがて、警察の護送車が何台もやってきて、
主催者や観客たちを、一斉に検挙していった。
家に帰ってニュースを見てみると、彼らは、
大勢で集会を開くことを禁止する法令に違反した
という罪で検挙された、ということだった。
これはコロナ感染防止対策の一環として、
蜜を防ぐための措置だった、としているが、
それであれば、検挙などする必要はなく、
主催者だけを呼び出して、
イベントを中止させれば済むことである。
今回捕まった(?)彼らは罰金刑に処され、
政府のリストに記録されるという。
僕が今住んでいる地域は、
反政府デモの中心地だった場所でもあるので、
警察が目を光らせているのも理解できるが、
かつて香港に溢れていた自由と公平の空気が、
どんどん失われていくのを目の当たりにして、
とても悲しい気持ちになった。
そして、こんなのまるで犯罪者扱いではないか、
と思った次の瞬間、はっ、となった。
こうやって警察のやり方を非難しながら、
意識の奥の方で〝ニヤッ〟とほくそ笑んでいる
自分に気づいたのだ。
自分は常に、安全な場所から、
誰かが犯した罪を糾弾したいと望んでいる!
理不尽でドラマチックな出来事を探して、
その罪を見てほくそ笑みたいと思っているのだ。
結果、外に罪を見つけて指摘したいという思いが
僕が見ている今の香港に映し出されているのだ。
静かにソファに座り、深呼吸をしながら、
父がいつも僕たちに向けている、
愛の眼差しを思い出す。
無条件に受け入れられ、愛されている感覚、
僕が密かに、どんな罪を望んでいたとしても、
それでも、愛しているという圧倒的な歓びの流れ。
愛の解釈で、
この密かな罪悪の願望を見てゆくと、
必死で罪を見つけようとしている自分をも、
とても愛おしく、慈しむべき存在に思えてくる。
そんな自分を抱きしめたい気持ちになるのだ。
様々な事象が雲のように流れてゆく中で、
僕にできることは、今この瞬間にある光を、
消えてゆく姿として、愛の眼差しでただ見つめ、
愛へと反転させてゆくことだけである。