編集者と打ち合わせのために訪れたバーで、久々にシャンパンを飲んだ。
シャンパンとはいつも相性が悪く、すぐに悪酔いしてしまう。
今日も頭が痛くなり、早々に帰宅した。
家に戻ってから短編がひとつできた。
『シュッと駆け抜けたもの』
いつものように〝枯葉のバー〟のカウンター席ででバーボンを飲んでいると、
隣りにいた年配の男と、若い男との会話が聞こえてきた。
「僕はそんなことを言っているのではないんだ。
決して決して、そんなことを言っているのではないのだよ。」と年配の男が言った。
「じゃあ、どんなことを言っているというのですか。」と若い男が訊いた。
「それはだな君、どうすれば終われるかについて語っているのだ。」
「そんなの無意味ですよ。だって初めから終わっているのだから。」
「なんだと、生意気な。」
「そっちこそ。」
「俺はまだ何にも終わっていないと言っているんだぞ。」
「僕は、はなから何も始まっていないと言っているんです。」
「こしゃくな!表に出ろ。」
「よし。望むところだ。」
ばんっ、とカウンターに両手をつき、2人が起ち上がった瞬間、
彼らはお星様に変わり、彗星のように光りながらシュッと出て行ってしまった。
(※小説『ジンジャー・タウン』より抜粋)