今日、仕事を終え、アパートへ戻るミニバスを待っていたとき、
地下鉄の入口から人が出たり入ったりするのをぼーっと眺めていた。
突然、四角い穴の中から人が飛び出してきては、どこかへ去り、
また、どこかから人がやってきては、四角い穴の中へと消える。
ごくありふれた、当り前の風景だったが、僕には赤い壁の中へ人が隠れた瞬間、
その人が消滅してしまったように感じたのだ。
また、突然人が地下鉄の入口から飛び出してくるような感覚におそわれた。
地下鉄の入口に消えた人たちは、そのあとも階段を降り、地下の改札を抜けて、
ホームへ向かう、わけではないらしい。ただ、そう思い込んでいるだけだ。
入口の中へ人が消えた瞬間、その人はすでに世界から消えてしまっている。
地下鉄の入口を入ったその奥、などというものも存在していない。
全ての光景が、自分の視界の中だけで展開されていて、それ以外の世界はない。
空間の奥の世界や物体の裏側の世界は幻影だったのだ。
バスが来た。乗る。運賃箱へ3ドル銀貨を入れ、席に着く。バスが坂道を登り始めた。
窓の外の風景が変化する。次々と風景がやってきては、消滅する。
月も、星も、宇宙も、自分が見ていないときは存在しない、とはっきり分かる。
そして僕たちは、
見えない世界(ない世界)のことを、
あると思い込んで苦しんでいる。
これって…。
光は自分が見ている場所にしか存在しない、ということ?
まなざしそのものが光だった。